1-20『幸福の在処』
いつでもいける場所ではなく
誰かに連れられる場所でもなく
自分で選んで着ける場所
高音を目に付いたベンチに横たえた後も、ネギと愛衣の追走劇は終わらない。
いやむしろ、派手さを増してきたといえる。
「光の精霊50柱(ウンデキム・スピーリトウス・ルーキス)!!
集い来たりて・ 敵を射て(コエウンテース・サギテント・イニミクム)!!」
愛衣の口から、朗々と紡がれる力の詩。
「魔法の射手(サギタ・マギカ)!!」
光弾五十。
それもただ追尾してくるのではなく、ネギの進行方向を制限し、囲むような絶妙の誘導を与えられていた。
全弾は回避不可能と判断。
ネギは一番弾幕が薄い左下方へと体を押し込む。
「……!」
いくつかの光弾の直撃を恒常結界で受け止め、地面で誘爆した衝撃を堪えつつ、弾幕を抜けた。
その代償として失速したネギに向けて、愛衣は更に詠唱を続ける。
「ものみな焼き尽くす・浄化の炎(オムネ・フランマンス・フランマ・プルガートゥス)
破壊の王にして・再生の徴よ(ドミネー・エクスティング・ティオーニス・エト・シグヌム・レグネラティオーニス)」
かざされた手には燃え上がるような魔力が既に可視化されていた。
定格以上に術式へと魔力をくべている証拠だ。
首だけ振り返ったネギは、それを見て、
「なるほど吸血鬼化されたせいか随分と積極的になっている。いい傾向だね、佐倉君」
少なくとも普段の愛衣では、敵に対しても此処まで果敢に攻撃を加えることはない。
敵であっても傷つけることに怯えや迷いを得ているからだ。
それを捨て去った今、愛衣は魔法使いの卵でありながら、魔法先生にも匹敵する戦闘力を有している。
だが、とネギは前置きして言った。
「怯えを喪うことと、怯えに克つことは別なのだよ」
ネギは喪った速度を取り戻すことに拘らずに地面へと着地した。
足下のゴムを削る音と共に石畳にスリップ痕を5メートルほど描いた後、急停止。
「?」
追い駆けていた愛衣は大きく弧を描いて減速し、ネギを眼下に見下す位置に箒を停止させた。
ネギの行動に疑問を得る。
これまでネギが逃げ続けていたのはステージを変更するためもあるが、エヴァたちに包囲されて一斉に攻撃を仕掛けられるのを避けるためでもある。
だというのに足を止めてしまってはその意味がない。
しかしネギはいつもの無表情のまま、詠唱を吟じ始めた。
「逆巻け・春の嵐(ウェルタートゥル・テンペスタース・ウェーリス)
我らに・風の加護を(ノービス・プロテクティオーネム・アエリアーレム)!!」
幾度かネギと共同で異族退治した経験のある愛衣にはわかる。
あの詠唱は、自らを竜巻で覆って防護する『風花旋風・風障壁』。
だが今の自分が渾身を込めて放つ魔法の直撃には到底耐え切れないし、そもそも増援のあてでもない限りは無意味な魔法だ。
尤もネギの奇行を間近で見ていれば、判断は即座に成される。
ついに脳が故障したのだ、と。
ゆえに愛衣は疑問を捨て、詠唱を完成させるべく言葉を紡いだ。
「我が手に宿りて・敵を喰らえ(イン・メアー・マヌー・エンス・イニミークム・エダット) ――― 紅き焔(フラグランティア・ルビカンス)!!」
「風花旋風・風障壁(フランス・パリエース・ウェンティ・ウェルテンティス)!!」
魔法は同時に完成し、愛衣は勝利への確信を以って、魔法を解き放つ。
しかし。
「な!」
ネギの風花旋風・風障壁は、ネギではなく愛衣を包むように展開していた。
虚空から生まれた紅の火炎は、渦巻く風に端から次々と散らされ、ついには火炎竜巻と化して愛衣を包む。
そしてようやく愛衣は自分の失策に気づいた。
……しまった!
ネギの狙いは自分と魔法を撃ち合うことではなく、あくまでこちらを無力化すること。
そのためにネギは空気 ――― つまり酸素を奪ったのだ。
通気を禁じる竜巻の中、火炎がこれだけの勢いで燃え上がれば、急速に内部酸素は燃え尽きる。
代わって上昇した二酸化炭素濃度が、愛衣の呼吸機能に著しいダメージを与えた。
「……んっ!」
集中を失った魔法使いに魔法を維持する力はない。
火炎は虚空へとかき消え、体は箒とともに地面へと落ちていく。
ネギはそんな愛衣を抱き止めて、いつもの苦笑を浮かべた。
「やれやれ、世話をかけさせる後輩だね」
その声に愛衣は静かに自分の敗北を受け止めた。
……やっぱり、先輩には敵わないなあ。
意外に逞しいネギの胸元に安堵を得て、愛衣はゆっくりと意識を手放した。
●
「アハハハ! 本当によくやるじゃないか! あのぼーや!」
高音も愛衣も凡百の魔法使いではない。
更に吸血鬼化によってその潜在能力を発揮した二人は、単独でも戦闘系魔法先生に匹敵するだろう。
それらを傷つけることなく無力化したネギの手際は感嘆に値する。
……なるほど、最年少のアデプトというのは伊達ではないらしい。
その授与はサウザウンドマスター(おや)の七光りではないかと疑っていたが、認めざるを得まい。
ネギ・スプリングフィールドは、自らが直接相手をするに足る、一流の魔法使いだ。
「マスター、残り時間に御注意を。停電復旧まであと132分51秒です」
冷静沈着な従者の言葉に、エヴァは頷く。
ばさりと蝙蝠のマントを広げた。
「わかっている、そろそろ決着をつけてやろう」
妖艶な笑みを浮かべ、最強の吸血鬼は舞台へと上がるべく進撃を開始した。
●
無数の屍の上に立つのは、白いスーツを着こなしている高畑だ。
彼は随分と短くなった咥えタバコを、ポケットから取り出した携帯灰皿へと押し込む。
「一本につき七十体ちょっとか。う~ん、予想以上に体が鈍っているかな」
「キ……ザ……マ!!」
振り向いた背後に居たのは、凶悪な棘のついた金棒を持つ、巨躯の赤鬼だ。
だがその右上半身は大砲の直撃でも食らったかのように抉れており、血の変わりに魔力を放散し続けている。
彼ら異族の肉体は人間とは異なり、純粋に想念と魔力のかけ合わせによって成り立っているからだ。
高畑はひらひらと手を振って気安げに言った。
「ああ、無理をしない方がいいよ。どうせ送還されるにしても術者に返されるのと倒されるのじゃ全然違うんだし」
「ジ。ネ!!」
金棒を膂力任せに振り下ろす。
風を押し潰す轟音とともに、鉄の質量が高畑へと迫る。
狙いは脳天。この距離ならば外しはしない。一撃必中だ。
しかし。
――― 豪殺、居合い拳。
音速超過の拳は風を打撃する音さえなく、赤鬼の体を金棒ごと吹き飛ばした。
破壊はそれだけにとどまらない。
衝撃波が土砂を抉り、地面を覆っていた数十の屍ごと天へと巻き上げる。
屍は地面へと叩きつけられる前に、無数の光の粒子と化して夜天の星々へと吸い込まれるように消えていった。
高畑は一言。
「やっぱり体が鈍っている」
しばらく有給とって山篭りでもしようか、と思いながら高畑は自身の空腹に気づいた。
今まで戦闘状態で緊張していたため自覚していなかったが、時刻はそろそろ10時を回る。
ふう、とヤニ臭いため息を夜空へともらした。
高畑が見つめる中、白い吐息は夜の闇に消えていく。
「どうぞ、高畑先生」
そんな高畑に差し出されたのは、おにぎりと湯気を立てるお茶だ。
そしてそれを持つのは。
「ああ、しずな先生。ありがとうございます」
「お疲れ様です……で、どうですか?」
「そうですね……」
高畑はしずなに促されてベンチに座り、おにぎりに齧りつく。
コンビニで購入したものではなく、手製特有のしんなりした海苔とまだほのかに暖かい具が嬉しい。
「……悪鬼や羅刹といった東洋系の異族が随分と多いですね。それも符を使った略式のものではなく、手間隙をかけて完全に実体化させたものばかり。おそらく術者はこの機会を狙って周到に準備をしていたんでしょう」
「やはりネギ先生が赴任してきたことが原因でしょうか?」
ネギの父親、ナギは一時期京都を本拠に日本で活動していたことがある。
その際、関西呪術協会や土着の退魔組織とかなり衝突していたらしく、向こうでは随分と恨みを買っていた。
親の因果が子に報いとはネギにっては迷惑極まりない話だが、よくある話ではある。
「それもあるかもしれないけど……今年は世界樹へとやけに魔力が収束しているだろう? そちらの方が大きいと思うよ」
世界樹の異名をとる、神木・幡桃。
樹高270メートルを誇るこの大樹は、アジアの大地脈に根を下ろし、その魔力の一部を学園都市へと供給している。
その内に秘めたその魔力は22年周期で極大に達し、樹の外へと溢れ出す。
それは来年のはずだったのだが、昨今の異常気象のせいかどうも今年に早まってしまったようだ。
その満ちる魔力に引かれ、在野の魔法使いやはぐれものの異族、あるいは関西呪術協会などといった、西洋魔法協会に好意的でない組織からの刺客が、学内停電日という無防備な瞬間を狙って押し寄せてくるのだ。
そんな彼らに対応するため、世界樹へと続く通路へと配置されたのは、自分やガンドルフィーニ、刀子、明石教授といった戦闘系魔法先生ばかり。
一般人には気づかれないように結界を敷いているとはいえ、高畑の鋭敏なカンは今も激しい魔力と殺気の衝突を察知している。
お握りを食べ終えた高畑は空を見上げた。
彼がいつも通勤している、中等部エリアの方角の空だ。
「中等部エリアと麻帆良大橋を覆うように展開された結界、か。学園長が大学の方で指揮を取っているのは幸運だったのか不幸だったのかな」
「内部との連絡もつかないそうです。弐集院先生が解析してしますけど、結界強度が10もあるらしく、こちらからでは手出しできないとか」
中等部エリアの担当は、高音、愛衣、そしてネギ。
そのどれにも連絡がつかないのは、彼らが揃って携帯の電源を切っているなどという間の抜けたことではなく。
「10か。完全にこちらとの因果接続が切れた異界となっているね。そしてそれだけの結界を広範囲に展開できる者と言えば……」
二人の思考は数秒で同一人物にたどり着いた。
「エヴァさんですね」
「 ――― ったく、あの馬鹿。いくら学園長でも庇えなくなるぞ」
高畑とエヴァはかつては同級生であり、いまでもそれなりに気安い仲だ。
五百年超過の吸血鬼のくせに、どうも子供っぽい稚気が抜けていないことには気づいていたが、まさかこんなことを仕出かすとは。
狙いはどうせ呪いを解く為のネギの血なのだろうが、余りにも行動が直接的で迂闊すぎる。
そこが憎めないと言えばそうなのだが。
「ネギ先生、大丈夫でしょうか? 確かまだ仮契約のパートナーもいないんでしょう?」
「ああ。そもそもネギ君のお爺さんと学園長が、一向にパートナーを作ろうとしないネギ君に業を煮やして、あの3-Aに叩き込んだんだけど ――― ネギ君の性格上難しいものがあるよな」
もともとの性能が高いために他人の助力を必要としないのと。
「どうしても重ねちゃうよな。しかも明日菜君はネカネ君と生き写しだし」
「明日菜ちゃんのこと、気になります?」
高畑は応じるように肩をすくめた。
しずなは微笑を零す。
「でもきっと大丈夫ですよ。明日菜ちゃんも、ネギ先生も」
「そりゃまた、どうしてだい?」
「明日菜ちゃんは、王子様が迎えに来てくれるまで鳥篭の中で黙って待っているようなお姫様じゃありませんもの」
「ネギ君は王子様じゃなくて魔法使いだよ。それもきっと佐山翁のように悪役となり、ナギさんの残した全ての負に挑むことなる ――― 悪い魔法使いだ」
「あら、攻撃力の担い手は魔王であっても構わないんですよ。それにこの世の中、一人くらいは奇特な姫がいるでしょう。窮地に陥る魔王の下に駆けつけて ――― 傍らで戦いたいと願う姫が」
ふと見上げた中等部エリアの空。
しずなと高畑はそこにありえざる者を見た。
今時珍しい木製の杖に跨って、ツインテールをなびかせながら夜を駆けていく人影を。
「ね?」
思わずコップを取り落とす高畑と異なり、しずなは満面の笑顔を浮かべていた。
●
ネギが背中の翼を乱舞させ疾風を従えて、エヴァへと加速する。
「闇夜切り裂く・一条の光 ――― (ウーヌス・フルゴル・コンキデンス・ノクテム ――― )」
鉤状の右手に宿るのは魔力。
魔力の軌跡を夜空へ描きながら、しかしネギはアクセルを緩めない。
ネギの詠唱を止めるべく、茶々丸が足下と背中のアフターバーナーを全開し、迎撃に出る。
敵とはいえネギの喉を潰すのは、茶々丸には耐えがたい。
狙いは魔力の篭った右手。
そこさえ抑えれば、ネギは詠唱を続行することが出来ない筈だ。
その思考のままに、茶々丸はネギの右手に組み付きそのまま関節を決めた。
「これで終わりです、ネギ先生」
しかしネギの変わらぬ表情と、そして右手に宿る魔力を解析して、茶々丸は一つの解を得た。
「これは……まさかフェイク!?」
その通り、とネギは頷いた。
あくまで右手の光は詠唱とは無関係な、純粋な魔力放出によるもの。
魔法の基点は黒衣の袖に巧妙に隠した左手にある。
「我が手に宿りて・敵を喰らえ(イン・メア・マヌー・エンス・イニミークム・エダット)!!」
ネギの左手を中心に紫電と磁力が荒れ狂う。
如何に絶縁処理や対磁場処理、そして魔力による障壁で覆われようとも、茶々丸は精密機械の塊である。
これほど強烈な電撃をゼロ距離から浴びれば、一時的な戦闘離脱は免れまい。
「どけ、茶々丸!」
エヴァは硬直していた従者を叫び一つで敵より引き剥がし、詠唱省略魔法を解き放つ。
ネギは回避した茶々丸ではなく、エヴァへと向けて魔法を解放した。
交錯する二人。
「氷爆(ニウィス・カースス)!!」
「白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)!!」
低温の白き華が一輪咲き、それに稲妻という名の青い茨が添えた。
次に発生するのは衝撃波という名の大輪だ。
接触した魔力同士が反応でも起こしたのか、予想以上に強烈な衝撃波が地上を圧するように吹き荒れる。
「……!」
鼓膜を破くほどの爆音と共にネギは体勢を崩したまま、麻帆良大橋の橋塔へと叩きつけられた。
痛みに意識を割かれ、飛翔魔法を発動させることができない。
そのままバウンドして、橋床へと落下する。
かろうじて受身を取りながら、ごろごろと橋床を転がり、そして痛みを堪えながら立ち上がった。
そんなネギには対照的に、無傷のまま悠々と降り立ったのはエヴァと茶々丸だ。
「茶々丸が出し抜かれるとはな。偽装や騙しが随分と得意なようだ」
「何、偽悪を振りかざす山猿と、夜な夜な卑猥なゲームにいそしむ老人、妻帯者でありながら覗きに精を出すオープンエロスな変態ども……彼ら異常極まるメンツに囲まれて数年ほど暮らしていれば自然と身につく技術だよ。君もどうかね? 尤も肖像権の保障はしないが」
ネギは黒衣の裾をはたき、静かに身構えた。
しかし、エヴァは子供の落書きを見るような微笑ましい笑みさえ浮かべる。
「ふふふ、強がりまじりの時間稼ぎか? わかっているぞ、さきほどの衝撃でほとんどの護りを失ったのだろう?」
「……」
告げられた言葉にネギは表情を変えずに無言。
だがその無言こそが何よりも雄弁な肯定となる。
恒常結界も復旧するにはあと数十秒の時間を必要とし、今までダメージを肩代わりしてくれていた賢石ペンダントも先ほどの衝撃で全て砕け散ってしまった。
それらの補助なしで、エヴァとそして彼女からの魔力供給を十全に受ける茶々丸を相手にするのは、少々不利が過ぎる。
エヴァは口元に笑みを浮かべて、静かにネギへと近づく。
その美貌とあいまって妖艶な笑みを浮かべて。
「だがここまでよくやったよ。ぼーや。一人で来たのは無謀だっ……」
「わあああああああああ、そこの人、どいてどいてぇー!」
「 ――― ん?」
背後からの聞き覚えのある声に、エヴァが振り向いた瞬間見えたのは ――― 杖の先端だった。
「あぷろぱあああああっっ!!」
「あ、マスター」
車輪の如く回転しながらエヴァの体が橋床を転がっていく。
彼女は橋床に白い軌跡を描きつつ、手足をついて勢いを殺し、体勢を整えた。
「……ぐっ!」
エヴァが柳眉を逆立てて面を上げた。
「くそ! な、なんだ今のは!?」
周囲を見回すが、先ほどの杖も、それに跨っていた人影も見当たらない。
それにネギの姿もかき消えている。
「ええい、ぼーやまで消えているだと! 一体どこへ行った!?」
辺りを見回すエヴァに対して、突然の乱入者に対応できなかった茶々丸が頭を下げつつ進言した。
「申し訳ありません、マスター。それと額に痕が……」
完璧なまでの美貌を誇るが故に、額についた○の痕がなんとも間抜けていた。
●
「で、何故君はここにいるのかね、神楽坂君?」
ネギと明日菜が身を隠しているのは、橋塔部の裏。
エヴァと茶々丸からは見ることができない位置だ。
「助けてもらったことには素直に感謝している。だが言ったはずだ。力というものを正しく行使するためには意志と覚悟が必要だと」
一息。
「それらがないまま力を振るうことを選べば ――― 君は確実に不幸になる」
それは明日菜がなまじ強大な力に恵まれているために、より顕著に現れる。
ネギにとって、望むべくもない最悪の未来像だ。
その言葉を聞いて明日菜は思う。
……こいつは本当に私のことを心配してくれているんだ。
そのためならば自分を潰してもいいほどに。
その気持ちは純粋に有り難い、だがこうも思う。
「ネギ ――― アンタ全然わかってない」
「?」
いつもの無表情だが真剣なネギの顔を、明日菜は真っ直ぐに向き合って言った。
「アンタの言うとおり、私には覚悟も意志もないかもしれないわよ……だけど!」
そう、胸にあるのは大事な人を喪ってしまって抱えた欠落だけだ。
そしてその欠落からさえもずっと目を逸らして生きてきた。
「例え死ぬことになっても、それでも護りたいものってものはあるもんでしょ!?」
だけどもう、そうやって生きることは出来ない。
思い出してしまったのだから。
彼の、最後の言葉を。
「そういうのを護るのが、『幸せ』なんじゃないの?」
この言葉にネギは眼を見開き、そして一拍を置いた後、真剣な顔で言った。
「神楽坂君、君は今 ――― ひどく青春夢日記的な物言いをしていることに自覚があるかね?」
「茶化すんじゃないわよ、こーゆー時に! 恥いのを我慢したのとかいろいろ台無しでしょうがっ!」
本気で襟首を捕まえて揺さぶる明日菜から逃れたネギは、やれやれと吐息を一つ。
そして浮かべる表情を隠すように、顔を横に背けて言った。
「やめておけばいいのに、まさか戦うことを望むとは。 ――― 疲れることだというのにね」
しかしネギの口元には笑みがある。
作ったものではない、思わず魂から込み上げて表に出てしまったような、そんな笑みが。
「……」
明日菜はその笑みを見て思う。
……ああ、私って安い女なのかな。
あれだけ悩んで苦しんでいたというのに、笑顔一つでどうでも良くなるなんて絶対どうかしてる。
そんな明日菜の内心を知ってかしらずか、ネギは明日菜に手を差し出す。
握手だ。
「では神楽坂君。あの問題児たちをなんとかするために手を貸して欲しい……いいかね?」
明日菜はその手を握り返し、照れ隠しの混じる声で言った。
「手伝ってあげるわよ、ネギ……っと、そうだ。これアンタのでしょ、返しとくわ」
明日菜がネギに手渡したのは杖と、そしてその杖頭にしがみついている獏だ。
ネギは左胸を右手で押さえながら、眉をひそめて言った。
「これは……何故君がこれを?」
「この杖がいきなり窓をブチ破って部屋に突っ込んできて、私をここまで運んでくれたんだけど……どうかしたの?」
いや、とネギは複雑な顔をした後、背中に杖を差し込んだ。
獏はそのままぴょんとネギの頭へと飛び移る。
やはりお気に入りの定位置はそこらしい。
「さてと、では彼女達に見つからないうちに仮契約をすませてしまおうか」
「仮契約?」
「私の魔力を君に供給することで君の全能力を底上げし、さらに潜在能力を目覚めさせる。RPGゲーム風に言えば、一時的にレベルを三桁単位で跳ね上げるようなものだ。短時間ならば今の絡繰君とも渡り合えるだろう」
「ふうん、便利な魔法もあるものね」
「その通り。二度ネタですまないが ――― 犬に噛まれたと思って許して欲しい」
……へ?
という間の抜けた声が、ネギの唇で封じられた。
「 ――― 」
予想外の行動に明日菜の身が緊くなる。
だがネギはそれを緩く抱きしめることで明日菜の緊さを逃がした。
「……」
数秒して二人の唇が離れた。
そして、打撃音一発。
「……何すんよっ!」
「君にこそ何をするのかね!? いきなりゼロ距離から側頭にソバットぶちこむとは!」
「乙女の口付けをなんだと思っているのよ! それにそもそも何がイヤって、それがすんごい気持ちよくって思わず濡れちゃったじゃないの馬鹿ー! あーもー、なんか腰が抜けちゃったし、頭の後ろ側がびりびりしてるし! ……って何エロ台詞言わせるのよ!」
ネギは痛む側頭部に手をやりながら、
「あの威力で腰が抜けているのかね、君は? ……まあ、とにかく落ち着きたまえ。エヴァンジェリン君たちにみつかってしまうのでね」
連続で地雷を踏む明日菜に対して、静かにするよう、手で低い空間をゆっくりと叩くジェスチャーを見せる。
「口づけで体液交換してラインを確立するのが一番てっとり速いのだよ。他にも仮契約方法は存在するが ――― 姓を変えるようなものもあるからね」
「姓を変えるって……」
明日菜は思わずその言外の意味を理解して更に真っ赤になった。
「まあ君が望むなら私はやぶさかではないのだが ――― 明日菜・スプリングフィールド、あるいは神楽坂・ネギか。ふむ、なかなか悪くはないね?」
「悪いわよ!」
明日菜は渾身の勢いでネギのネクタイを引き絞った。
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コメント
うわー、来てたー!w
ずっと待ってましたよー(*゚▽゚)ノ
嬉しさの余り本文読む前にコメント書き込んじゃいましたw
今から読んできます~。
投稿: 川下 実 | 2008年10月24日 (金) 21時05分
アスナとネギ、高畑としずなのコンビの掛け合い大好きです
タカミチかっけえよタカミチ
佐山ネギの変態的(褒め言葉)素晴らしさは言うまでもないです
投稿: 老兵 | 2008年10月25日 (土) 15時14分
おー、久しぶりの更新ですな。
ご無事で何よりです。
新作も刊行されたことですし、これからの展開、楽しみにさせていただきます。
投稿: tdd-1 | 2008年10月26日 (日) 11時38分
復活キターーー!!!
もう更新されないと。軽く絶望していたのに、そんな私を裏切るなんて。なんてひどい人、んもー、大好きです。
原作でもキャラが増えたから大変かもしれませんが、境界線上のホライゾンでも読んで頑張ってください。
投稿: リクルート | 2008年10月26日 (日) 12時28分
祝!復活ぅぅ!!
(≧▽≦)
ネギとアスナ最高だ!
アスナからエロトークでた。やばい、いろいろヤヴァイ!
あと、タカネくん役得ですね(·ω·)/
投稿: 他人 | 2008年10月27日 (月) 20時14分
復活キター!!
待ってて良かった!
投稿: | 2008年10月31日 (金) 02時49分
復活お待ちしてました。
投稿: 山瀬竜 | 2008年11月 2日 (日) 01時50分
この悪役めが!(褒め言葉)
この佐山らしいネギが戻ってくるの待っていました!
投稿: イペリット | 2008年11月20日 (木) 23時39分
今日の女・・一緒に街歩いてたらオレのズボンのポケットに手を突っ込んできて、
ずっとニギニギしてたわwwww
ホテル到着するなり(フ^ェ^ラ)だもんなwwww Say欲すごすぎwwwww
http://paipai.krieh.com/dpmKL8N/
投稿: パクーーーンチョ!!! | 2009年5月 8日 (金) 08時03分
調子ノってGW中に毎日セクりまくったら超腰イテーwwwww
まぁおかげで一気に50万貯まったけどな(^-^)v
バイク買ってマッサージ行ったらしばらく休憩するわーw
http://ikisou.sersai.com/i0YkgUo/
投稿: もう無理www | 2009年5月11日 (月) 18時15分
> ユーさん
例のアヤちゃん!!唾ダラダラ垂らしながら喉フェラ三昧のスゴ技師でしたよwww
そのまま口に発射したら精子全部飲んでくれたうえに超テンションアゲアゲで10万くれたしwwww
ノリのいい金持ちってオバカ多いですねーwwwwwww
http://komachin.anusu.net/SL8ASWF/
投稿: ジュブズブすぽ | 2009年5月18日 (月) 18時05分
中出しで報酬アップってどんだけだよwwww
とりあえず昨日ヤってみたら7万の予定が11万になったしww
これは嬉しい限りだからずっと続いて欲しいですwwwwwwww
http://papapai.younube.net/zW0aUuK/
投稿: 中出しがポピュラーな件wwww | 2009年5月23日 (土) 20時37分
まだあわてるような時間じゃない
前回更新からまだ1年も経ってないんだ
投稿: 通りすがり | 2009年6月 4日 (木) 16時08分